連載・手仕事レポート

南薩の長塵籠 鹿児島県日置市吹上浜 2009/4

 

 

 

縦に長く切り立った造形が魅力なこの籠を、私は鎌倉の工芸店もやい工藝で塵籠として使われているのを見て以来、いつかは手に入れたいと思っていました。しかしそのもやい工藝でもなかなか入荷することがなく、ずっと待ち望んでいたのですが、今年の年頭にもやい工藝で開かれた“カゴ・ザルの会”で、やっとその機会に恵まれました。もやい工藝には大中小の3種の大きさが一個づつ入荷していたのですが、迷わずに「大」を購入しました。縦長に切り立った迫力のある形が魅力なので、その点が最も活きている一番大のものを選んだのです。用途は塵籠です。使ってみると、これが予想通りに存在感があり、見た目も使い勝手もなかなか良いのです。他にこれと言った良い塵籠を見つけることができませんので、おそらく、今後も永く使うことになるだろうな、と感じています。この籠は、現在は“長塵籠”と名付けられて日常の生活用具となっていますが、元々は醤油作りのための“簀(す)”というものでした。では、醤油の簀とはいったい何でしょう?

その紹介写真の中で、私の目が一瞬釘付になった箕のような笊のようなものがありました。
文章を読み進めてみると、「マタタビ皮と篠竹を編み込んだ箕があり・・・」とありました。
この事かと思い、写真をずーっと観察していたところブログの文章からそれが何であるか分かり始めました。

簀は、醤油を製造するために必要な竹製の道具で、醤油の原料を満たした大きな樽の中で使われていたものです。発酵が進んだ段階で樽の真ん中に立てると、簀の外側のもろみからその内側に澄んだ醤油が溜るという仕組みです。籠の生産地である南薩摩地方ではかつて、各家庭で自家製醤油を造っていたそうですから、当時は生活に欠かせない道具だったはずで、おそらく、かなりの量が必要とされていたことでしょう。

長塵籠は醤油造りの簀が原型ですので、その特徴が籠の構造に現れています。つまり、簀は、醤油樽に漬け込まれるためその水分や塩分による腐食に少しでも長く耐えられるように作られていて、通常の籠などに使用される倍の厚さの竹ヒゴで編まれているのです。そしてその厚みのあるヒゴが、籠の醸し出す素朴な力強さを一層引き出して、籠をより魅力的なものとしています。しかし、その厚みある材料は製作上では厄介もので、編む際には通常の仕事に比べより多くの腕力を必要とし、また、曲げに弱くなる(粘りがない)ために折れやすく、作業は困難となります。したがって、この籠は誰にでも製作出来るものではなく、製作者の技量が問われる仕事なのです。

写真の2つの籠は、それぞれ製作者が違います。飴色になった古いものがもやい工藝で永く使われているもので、小吹さんという方(故人)が制作しました。そして、まだ青味が残るものは、現在の作り手である永倉さんが制作したもので、私が入手した長塵籠です。それぞれ作り手の技量による違いが見て取れるのですが、具体的には、ヒゴの厚さ、縦骨の間隔、底の仕上げ方などが違っていて、その違いから籠が醸し出す雰囲気にも差が出ています。2つの籠を見比べると、小吹さん製作の古いものにより惹かれてしまうのですが、それは、素材の持つ力強さがより一層引き出されていて、切り立った形状は無骨ですが、それがむしろ素晴らしいのです。もちろん、永倉さん製作の籠も十分に魅力的で、現在手に入れることができる中では最良のものであるのは確かなのです。

この長塵籠の魅力は、何と言っても、その特徴的な縦に長く切り立った素朴な形状にあります。また、厚めのヒゴをツヅラで巻いた無骨な印象の縁の仕上がりも魅力的です。この籠のように、本来の用途を大きく離れてもその魅力的な形状や構造を損なわずに、現在の生活用具として転用される例は貴重です。さらにその結果として、大切な技術や地域性豊かな手仕事の良品が途絶えることなく引き継げていけるのであれば、それは何と素晴らしいことでしょう!

長塵籠については“Kuno×Kunoの手仕事良品#027[南薩の竹かご]”をご参照ください。http://teshigoto.ehoh.net/serial_report/kunokuno/rt-kk27.html

手仕事フォーラム 鈴木修司