連載・手仕事レポート

小谷栄次さんのグラス 岡山県倉敷市 2008/8

 

 

 

高さ9センチ、口径6.5センチのモールグラスです。砂漠を吹きわたる風が、偶然残していった風紋のような模様が入っています。

一見シンプルですが、その表情豊かなこと! 光や背景を映し込み、また、中に入れるものによって、まったく違う顔を見せてくれます。手に取った誰もが、思わず空にかざしてみたくなるでしょう。

空っぽの状態で真横から見ると、8ミリ幅の細かいねじれ模様がクロスして、美しい斜め格子に。真上からのぞき込めば、風車のようにも。繊細だったり、きりっとしていたり、躍動感があったり。目線を少しずらすだけで、全く違った雰囲気に感じられるのは、機械製品にはないおもしろさです。表面の凹凸は見た感じよりも浅いため、手当たりがとてもやわらかく、突き放すようなガラスの冷たさもありません。ものすごく高価なわけではありませんが、品がよいため、いつもの飲み物をちょっとノーブルな気分で楽しめます。

従来チーム作業だった吹きガラスを単独でこなす「スタジオガラス」を編み出し、倉敷ガラスとして広めたのが、父・真三さんでした。70歳を過ぎた今も一線で活躍する父の背中を見続け、数ものをこなしながら、ご自身の世界を築こうと試行錯誤されてきたのではないかと想像します。それでも、妙に気負ったり、日常当たり前に使うものづくりから離れたりせずに、より几帳面で、洗練された「栄次さんの世界」が、このグラスに凝縮されています。

 

(手仕事フォーラム 大部優美)