連載・手仕事レポート

栄用窯の酒甕(サキガーミ) 沖縄県読谷村 2009/6

 

 

 

 

一年以上前に一目惚れで手に入れた沖縄荒焼(無施釉焼き締め陶器)の甕。用途としては泡盛の貯蔵(熟成)用で、沖縄では酒甕(サケガーミ)と呼ばれます。私もその用途に忠実に自家製古酒を作る為に購入したのですが、単純にその甕から沖縄ヤチムン本来の美しさ、力強さ、素朴さを感じたからでもあります。その甕を目にした途端に、荒焼(アラヤチ)ならではの硬く焼き締められた質感と沖縄らしい柔らかい造形が相乗効果となり、これは手に入れて是非使ってみたいと感じたのです。

 この酒甕を制作したのは新垣栄用さん。沖縄荒焼の作り手としては、この方をおいてはいないという存在で、実際にこれ程の大きさのものになってくると唯一の作り手ではないでしょうか。栄用窯は、代々の荒焼の窯元ですが、現在の沖縄では上焼(施釉、絵付け陶器)が主流です。戦前までは壺屋地区の窯元の約8割が荒焼の窯で、戦後の民芸運動のお陰で上焼が一般に普及し、また生活スタイル の変化に伴い、甕壺類を中心としていた荒焼の需要は少なくなっていくのです。昨今の泡盛ブームもありますが、栄用窯は沖縄でたった一軒の実用陶器の荒焼専門窯となったのです。しかし栄用さんもご高齢で、酒甕などの大きな仕事も続いてあと何年かであり、その跡を継ぐであろう御子息に期待が懸ります。また他窯元でも伝統的な荒焼の仕事を残そうと頑張っているところもあるようなので、何とかこの沖縄らしい大らかな仕事である荒焼の伝統は続いて欲しいものです。

話は変わって手法の話ですが、これら酒甕などの大物はタタキという独特な方法で作られます(羽子板のような木片で叩き上げながら成型していく)。元は朝鮮から苗代川などの南九州地方へ、そして沖縄に伝わってきた手法で、沖縄では長く継承されています。実用一番の甕や壺にとって、叩いた跡などの雑さが表面に残っても全く気にもされず、そして形に均一性を求めることもなく、それにより嫌味のない荒焼ならではの表情が生まれるのです。造形の点では、何と言ってもふくよかな丸みのある形が魅力で、また3箇所に付いた耳が視点のポイントになりバランスがとても良いのです。

またこの耳は紐などを通すといったものではなく、持ち運ぶ際につかみ易く引っ掛かりの為ではないかと考えられます。おそらく必ずあるべきものではなく、沖縄特有の形状であるアンダガーミ(油甕)から影響されて何となく付けられ、このような甕類には何でも付けてしまうのではないでしょうか。それら耳が無いことに、沖縄の人は不自然さを感じてしまうのかもしれません。
※この三升甕は焼き上げる際に、3個縦に積み上げられます。それにより上中下段それぞれで形状が若干異なってくるのですが、下段のものとなるとその重さに耐えるべく厚く成型する為に鈍重な印象となってしまい、中では上段のものが最も美しい形となるのです。ちなみにこちらは上段で焼き上げられたもの。

実用から生まれたこの酒甕は、充分に沖縄の地域性を感じさせてくれます。荒焼ならではの素朴でありながら力強い表情と、琉球的なふくよかで美しい造形が相まって、これこそ沖縄陶器の逸品ではないでしょうか。
それに何と言っても、自家製古酒が出来上がる20年後が楽しみです・・・。

 

(手仕事フォーラム 鈴木修司)