フォーラムのフォーラム

信州・松本会員フォーラム

2005年5月、手仕事フォーラムのメンバーは近畿、北陸、関東各地から長野県松本市に集合。1泊2日の日程で市内各所を巡り、松本ならではの手仕事の現場を見るなど、さまざまな角度から手仕事をについて学んできました。その一部を報告します。


松本民芸生活館
14日(土)

昼食 「たくま」
13:00 松本民芸家具・中央民芸ショールーム
14:10 松本民芸家具工場
15:25 松本民芸生活館(非公開)
16:40 荻原小太郎氏宅(非公開)
美ヶ原温泉泊

15日(日)

9:00 徳運寺
10:40 大久保醸造店
12:10 松本民芸館
昼食 「木曽屋」
中町商店街散策
喫茶 「まるも」
解散


とんかつ&カレー たくま

仲町 中央民芸ショールーム


松本民芸館


松本民芸生活館2階

松本民芸家具・工場の一室


松本民芸家具・工場の職人

■萩原さんのお宅

日本の伝統家具を代表する松本民芸家具の創設に関わった一人に、荻原小太郎さんがいます。現在は松本市内で奥様と静かな生活を楽しんでおられのですが、その素敵なご自宅を訪ねることができました。奥様は、松本民芸家具の創設者で主宰者の故池田三四郎氏の妹さんです。

荻原さんご夫妻のお宅を訪ねて、最初に感じたのは“綺麗”。シンプルなのですが、とても洒落たお宅で、隅々まで整頓が行き届いています。
 例えば奥の間の調度品の配置です。箪笥の並べ方、その上の飾り方、壁に吊るされた額の絶妙な位置。どれ一つ主役を主張する訳でもなく、それぞれが引き立て合い、そしてそれぞれ凛とした存在感があります。また、天井近くの壁付けの飾り棚は、よく見かける大皿ではなく、8寸程度のお皿が五枚静かに飾られていましたが、このさり気なさも素晴らしい。

ステンドグラスがあって、その際に飾られたガラス類は、思うがままに並べたのか、それとも考えに考え抜いてこの配置になったのか分かりませんが、ステンドガラスに貼られた障子紙を通したやわらかい光を浴びて、どれも可愛らしく輝いていました。

お別れの挨拶の途中での奥様の言葉です。「この家には、なにもないのよ。携帯電話もないし、もちろん自動車もないし」「私は歩行者免許証、夫はホンダじゃなくてフンダモーターね」。徒歩と自転車のことですが、洒落てます。生活を楽しんでいるのがひしひしと伝わってきました。何もないのではなく、余計なもの、便利過ぎるものはいらない、すでに満たされていて、これ以上は何も必要ないということだと私は感じました。

 

手仕事フォーラム 鈴木修司



お庭も自作です


瀟洒なたたずまいの荻原邸


リビングから奥のお座敷を見る

リビングから奥の一角

リビングの椅子
松本民芸家具の試作品だとか


柔らかな光につつまれたステンドグラス


松本家具の置かれた庫裏

■本棟造りの庫裏

徳運寺は、松本市内から美ヶ原へと向かう街道筋から少し入った山裾にあります。

山門を入ると、緩やかな孤を描くむくり(起り)のついた本堂の大屋根がやさしく来客を迎えてくれます。
本堂に並んで建つ庫裏は、本棟造りと呼ぶ信州を代表する民家の造りで、勾配のゆるい切妻屋根の頂部に大きな板で「雀おどり」と呼ぶ棟飾りをつけ、妻側の深い軒の出が作り出す堂々とした入口周りが特徴です。外壁は柱と貫(柱の間に入った横材)を顕にした端正な造りで、白壁との対比が現代的な感覚を与えてくれます。1993年(平成5年)、民家再生の第一人者降幡廣信氏により新しく蘇りました。

徳運寺は創建から670年余り経つ禅宗の古刹で、過去数回の火災に逢い現在の本堂は1854年(嘉永6年)に再建されました。現在の屋根は1972年(昭和47年)に元来の茅葺き屋根からむくりを持った銅板屋根に葺き替えられました。人間の背丈にもなる茅を撤去するだけで3週間を要した位の大工事だったそうです。この本堂の屋根裏の木組みは一見の価値があり、お願いすれば見学させてもらうことも出来ます。

手仕事フォーラム 吉田芳人



特徴的な本堂の屋根。右が庫裏

庫裏の「ギャラリーボーロ」


本堂屋根裏の木組み

庫裏の富士山のようなみごとな梁

■長野県松本市「大久保醸造店」

 

突然ですが、食べ物が目的で引越しをしたことってありますか?
僕はあるんです。

松本に大久保醸造店というお醤油屋さんがあるのですが、僕はそこの「本造り甘露醤油」の大ファン。だけれど、その醤油を扱っているのは僕が住んでいる東京では一軒だけ(当時)。自分が住んでいるところからだと電車で2時間くらいかかってしまうので、結婚を機に、お店の近所に引っ越してしまいました。

そんな愛しの大久保醸造店に、フォーラムの皆と松本を訪れた際、行くことができたのです。僕の近所のお店では本造り甘露醤油しか見たことがなかったのですが、行ってみるあるではないですか、色々な醤油が。薄口醤油の「紫大尽」、「紫歌仙」、厳選された素材で造られた「すだちぽん酢」などなど。うーん、どれも試してみたい!結局目に付くものを片っ端から買ってしまいました。

社長の大久保文靖さんはとても気さくな方で、来意を告げると、「ほんとの野沢菜漬け食べたことあるかい?ちょっと食べていきなよ」といって、僕たちをもてなしてくれました。その野沢菜着けのおいしいこと。発酵食品のすばらしさを見せ付けられました。

この大久保さん、かなりひょうきんな方で、話の合間合間に小ネタを披露してくれるのですが、食、ことに醤油に話がおよぶ時は真剣そのもの。「相手にうまいものを要求するには自分でそれだけの見識を持たないと片手落ちになる」という言葉にはしびれました。醤油を造るにあたっての色々な信念もうかがうことができ、これはおいしい醤油ができるわけだと実感しました。

大久保醸造店の醤油をひとくち口にふくむと、醤油が発酵調味料であることを思い知らされます。舌に広がり、体の奥底にまで届きそうな複雑で甘美な味。そのままずっと飲んでいたいくらいおいしいのですが、食材と出会った時、掛け算というかなんというかほんとにものすごいことになります。ゆでてアクを抜いた蕨にただ大久保醸造店の紫大尽をかけたのですが、これが醤油をかけただけとは思えないすごい味。細心の注意を払い、最高の技術で作られた料理のようです。

この大久保醸造店の醤油は、日本の大切な宝だと思います。

 

手仕事フォーラム 藤岡泰介