漆器生産地として、東北地方では青森県津軽、秋田県川連(かわづら)、岩手県浄法寺、福島県会津が有名です。温泉とこけしに代表される鳴子町にも、僅かながらも漆器づくりがありますが、鳴子ではどちらかというと、日用品より温泉地の土産としてつくられてきたようです。
かつて東北地方には木器を使う文化があり、木器は日用雑器としてあたりまえにつくられ、使われてきたのでした。誰もが暮らしに応じた木器を求め、それに応える木工づくり=挽物職人が各地域におりました。挽物職人は製品に適う材を探して山中を渡り歩きます。奥山に住まい、挽物をつくっていました。その挽物に簡素な漆を施した椀を売り歩いたり、生活用品・農産物と交換して生計をたてていたこともありました。
漆塗りは、木器の耐用性の向上と防水の役割として発達してきました。それがいつの頃からか、漆塗りには丁寧さが要求され、やがて絵や紋様が描かれたりして、一般の人々の生活から遊離してきたとも言えましょう。現在も、漆塗りの基本は確かな技術による丁寧な塗装によってその器の良し悪しを決定するかのような捉え方が主流となっています。価格も堅牢性に左右されます。
そのことによってでしょうか、生産地でさえ一般の人達が漆器を当たり前に使うことはまれになってきました。鳴子の地でもこのような状況に陥っていると思われます。
現在、鳴子には昔ながらの挽物職人が二人いて、細々ながらにも仕事を続けております。その仕事が続けられるのは、挽物を必要とする漆職人が今も仕事を続けているからです。
手仕事フォーラムは、今もなお日本各地で生業として手仕事にとりくんでいる本物の職人=つくり手の技を紹介し、また、その手仕事が継続できるよう、現代の暮しに対応できる製品として普及されるようさまざまな活動と取り組んできました。
鳴子の、鬼首(おにこうべ)の山奥で挽物の仕事をする高橋昭市さんと、大口(おおくち)で漆器づくりをする手仕事フォーラム会員の小野寺公夫さんの二人に、ふだん使いの木器として手頃に用いられる器を、あらたに製作してもらうように依頼をしました。この木漆椀を、鳴子地域の人達に毎日の食卓で使っていただくことを願ってのことです。
この活動に賛同してくださった株式会社フィルムクレッセントが、9月12日の「鳴子手仕事フォーラム」に合わせ、私共のこうした取組みの過程を映像におさめてくださいました。鳴子手仕事フォーラムの当日、会場にてささやかながら発表いたします。
この映像を通して、「地域でつくられ、地域で使われていた手仕事の品々」が、再び息を吹き返すことを願っています……かつての生活文化の再来を希望して。
手仕事フォーラム代表
地域手仕事文化研究所主宰 久野恵一 |