「日本の手技・編組の仕事篭笊展ギャラリートーク」レポート

 10月28日、島根県出雲市の出雲民藝館で行われた久野恵一さんによる「日本の手技・編組の仕事篭笊展ギャラリートーク」の模様をお伝えします。

■「作り手と出会う旅」


今でこそ「もの」に取り付かれたような生活をしていますが、そもそもは「もの」よりどちらかと言うと「ひと」が好きで、作り手に会いたかったんですね。宮本常一先生の下で竹の籠や焼き物を研究する方々と旅をする中で一番興味があったのは、地方・地域で様々な暮らしをする作り手と実際に話をしてみることでした。ところが、実際に作り手と話しに行ってみると、作り手の作る「もの」が欲しくなり、持って帰ってくる。ただ持ってくるだけでは困るので、それを売るということに必然的に結びついていきました。
作り手と出会う旅を始めたのは、今から35年前のことです。そのときは中古のハイエースに乗っていました。当初、旅の生活は友人達と始めましたが、一人二人と減っていきとうとう今では私一人。「一緒に旅をするなら車の免許が必要」ということで、仕方なく免許を取りましたが、今では車なしでは生きていけないようになってしまいました。当時はまず何よりも「これで宿の心配がなくなる」ということが一番嬉しかった。今と違って昔は駅舎や路地で寝ようが自由でしたが、やはり宿の心配が常にありましたから、車を宿にできることが何よりも嬉しかったのです。こうして車で各地をめぐるようになりました。
初めはものを見る目がほとんどなかったので、まず作り手の所に行く。行くと欲しくなってしまうんですね。たくさん買ったものを多々納さんや陰山さんといった出西窯の皆さんに買って頂いたりして、支えていただきました。多々納さんの世代の方々の時代には民藝が最盛期を迎え、私たちのやっていることを理解し、支えてくださる方々がいらっしゃいました。くだらないものを買ってしまったこともありますが、柳先生の書かれたもの伊東安兵衛さんの『民藝案内』などを手本として、次第に目を養っていきました。
ただ、いいものを紹介されている書き手の方々にお話を伺うと、意外と作り手のことを知らないし、実際に各地を回られていないんですね。作り手ではなく荒物屋に出向いたりして、直接作り手に会いに行くということが乏しかった。むしろ、私はそういった所ではなく、自分で作り手を探して会いに行くようになりました。道中、竹の籠を背負った人、あるいはアケビ蔓細工を持った人を見つけては車を止めて、その作り手を聞き出して会いに行きました。こうして各地を走り、その地域の生活を見る中で作り手と出会うことによって、段々と「もの」の背景にある生活も見えてくるようになりました。
情報が発達し、交通も便利な時代になりましたが、手仕事についてはまだよくわからないことも残っている。そういう訳で、今日まで旅を続けています。

会員の活動報告

■手仕事の危機と再生


ところで、こうした手仕事は以前から消滅の危機に晒されているということが盛んに言われてきました。私がこの世界に入った35年前でもそうでした。伝統的な生活の変容によって伝統的な「もの」と「生活」が遊離し、作り手の経済的基盤も切り崩されてしまいました。ですから、一般的にはこうした手仕事が消えていく傾向は否めません。今回展示している竹細工にしても消滅の危機が喧伝されてきました。しかし、どうでしょう。現実にはこの通り竹細工は残っています。20年くらい前に日本民藝協会でも50年前に柳宗悦先生の集められた日本各地の手仕事を再調査する機会がありましたが、当時の手仕事が消滅していたかというとそうでもなかった。残っているんですね。ところが、近年の世界経済への参入によって日本の手仕事は決定的な危機に瀕しています。廉価の輸入品が大量に押し寄せてくるようになったからです。これまで危機が叫ばれてきましたが、これからが本当の意味での危機ではないかと思っています。
そもそも産業構造の変化によって農業や漁業といった生業の中で使われる道具を、そのままの形で使うことは難しくなっています。では、どのようにして手仕事を残していくかというと、それはやはり現代的な生活の中で使える道具作りをしていくことだと思います。
今回の展示品にしてもそうで、実際の生業の中で使われているものは少数で、大多数は現代の生活に適応しやすくするための改良を施したものです。例えば、竹細工ひとつとっても、竹の皮の使い方、磨き方、巻き方、縁の皮などについて作り手と細かく詰めて出来上がったものです。こうした改良は作り手からすれば余計なことに思われるかも知れませんが、ではそのままで作り続けられるか、食べていけるかといったら非常に厳しい時代になってきました。
会員の活動報告 しかし、皮肉なことに一方では女性誌などのメディアを含めて手仕事が隆盛しています。
その意味では手仕事も二極化していると言えるでしょう。一方では作り続けて何十年という作り手がいて、一方には昨日今日趣味で始めた作り手が並列的に注目を集めるという現象も見られます。ところが、注目も集められず顧みられない仕事をする人もいる。彼らは良い仕事をするけれども、しゃべるのもパフォーマンスも下手だし、なかなか評価されにくいのです。そういった人たちにどのようにスポットをあてていくのか、というのがひとつの課題でもあります。
こうして並べられている展示品も値段を見ていただければわかるように、一日一個か二個しかできないものです。これで生きていけるかと言えば、難しい。では、どうやってこうした手仕事を残していくのか。それにはひとつの新しい用の世界を私たちが作り上げていくことが大切です。新しい用の世界を作っていくためにも、改良・改善を施していくことが必要だと思います。それももっと若い世代とその発想を含めて、こうした新しい手仕事のある生活を作っていくことが手仕事の再生へとつながるのではないでしょうか。

 

手仕事フォーラム 田中浩司