出雲民芸館 秋の特別展「日本の手技 編組の仕事くらしの篭笊展」を訪ねて

 出雲民芸館は、この地方きっての豪農・山本家の、米蔵と木材蔵を改装してつくられました。母屋は、現在も山本家のご家族の方々が生活をされています。長屋門をくぐって一歩お屋敷に入ると広々とした庭、その向こうに母屋、右手に本館、そして左手に西館があります。その広いお屋敷の松や欅の大木が、静かにゆったりと風が近づく音を伝え、すべてがどっしりと落ち着いて、揺らぐことのない美しい空間が広がっていました。

この度、久野さんが全国を旅して集められた篭(かご)や笊(ざる)などの編組品が、この出雲民芸館に一堂に展示されるということで、是非とも見てみたいと足を運びました。会場のかつて米蔵であった本館には、青森岩木山のりんご篭、秋田横手のアケビ蔓篭、角館のイタヤ弁当篭、岩手久慈のニガ竹背負篭、宮城の肥料振り篭、長野戸隠の茶碗篭、千葉の草取り篭、大分日田の碗篭、長崎島原飯入れ篭、鹿児島北薩のツヅラ蔓バック……など、選りすぐりの品が展示されていました。実際に人々の日常で使われていた箪笥、大甕、絣など、丈夫ではたらきものであった道具たちが、今はゆっくりと休み、現在を生きる私たちにそっと力強く、本当の美しい暮らしを教えてくれているかのように感じられるこの出雲民芸館。そこに並べられた今も全国各地で作られている編組品を手にしていると、この展示会が、過去、現在、未来をつなぐ素晴らしい運動であるということが、一つ一つの篭や笊とそれを包む館全体から伝わってきました。

少し前までは、あたりまえのようにして私たちの暮らしの中で活躍していた自然素材の篭や笊が、今はプラスチックケースやナイロン袋などに取って代わられ、敢えて求めなければなかなか手にすることが出来なくなってしまいました。あたりまえにあったものが見られなくなるという事は、足元が揺らいでいるかのような不安な感覚を起こさせます。しかし、この展覧会を通して、地域によって様々な種類の健康な編組品が今も作られていること、そしてそれを励まし支える活動のあることがわかり、希望をもつことができました。私たちは、現在の暮らしの中でこそ、無表情なものではなく、表情があって使うほどにより美しくなるものを使いたいと思います。日常の生活に、愛着の湧く手仕事の道具を取り入れる事で、心がまるく穏やかになり、楽しくイキイキと安心して暮らしていけるのではないでしょうか。

 

手仕事フォーラム 加藤直子