「倉敷本染手織研究所」を訪ねて

倉敷を訪れる機会があり、小石原手仕事フォーラムでお会いした石上梨影子先生のご好意で、倉敷本染手織研究所を見学させていただきました。
倉敷本染手織研究所は、倉敷民藝館を設立した故外村吉之介氏が自宅を開放してつくられた学校です。芭蕉布の製作者で人間国宝でもある平良敏子さんも、外村先生のご指導を受けられました。
現在は毎年数名の研究生が、石上信房・梨影子夫妻のご指導のもと、民藝の生活空間の中で、天然染料による本染め、手織り、手紡ぎを学ばれています。
研究所は倉敷民藝館の川向に建つ落ち着いた古民家で、座敷には7カ月もの日数をかけて織られた絨毯が敷かれ、葛布が貼られた襖、ゲートレックテーブルやウィンザーチェアー、ノッティングの椅子敷きなど、調度やしつらいもすばらしく、民藝の生活空間の豊かさと奥深さが伝わってきます。
小石原フォーラムでご一緒したときにも感じましたが、研究生の方々に共通する「清潔感のある感じのよさ」は、こういう丁寧な生活の中で身につけられたものなんですね。

研究生は、民藝の空間の中で、美しい生活とは何かということを実感しながら日々機に向う

仕事場の風景
 お訪ねしたときは、卒業制作の真っ最中でした。1年間の研修を通して、服地、敷物、マフラー、ショール、ノッティングなど織物全般を学ぶそうですが、卒業までに着尺を織ることができるようになり、卒業式にはその着物を着て臨まれるそうです。
仕事場にある染織の道具は、織機や杼、糸車、はさみ類、籠など、どれもみな長年大切に使い込まれたことを想像させ、思わず撫でさすりたくなるほど美しいものです。
 「日々の生活のなかで使われる美しいものをつくりだしている」という誇りが、仕事場の空気に凛とした緊張感を与えているように感じました。
 倉敷では、アイビースクエアでも、大原美術館でも、街のカフェでも、ほうぼうでノッティングの椅子敷きを見かけます。ノッティングのシンプルであたたかみのあるデザインが、落ち着いた倉敷の街に、どこかモダンな雰囲気をかもしだしているように思えました。

 

会員の活動報告
1年間で着尺を織ることができるようになり、
自分で織った着物を着て卒業式に臨む

紡ぐ前の白綿と茶綿

ひざ掛けを製作中。
茶色は胡桃、白っぽいところは栗、黄色は山桃、
藍色の部分はログウッドで染めたもの。
自然材料ならではの味わい深い色合いです

糸巻き車を使って、杼のなかに入れる糸を巻く

 研究所で本染め手織りの基礎をしっかりと学ばれた生徒さんたちが、卒業後も全国でご活躍されることを楽しみにしています。
石上先生をはじめ研究所のみなさま、ありがとうございました。

 

手仕事フォーラム 後藤薫