出雲ぐるり探訪記 訪問地:出雲周辺 2005.10.12

10月12日水曜日、たくみ工芸店顧問久野さんとたくみ工芸店主任竹本さん、私の三人で鳥取を出発。11月に予定をしている展示会「出雲の手仕事」の為、出雲へ向かいました。私にとって初めての「仕入れ」の仕事。一日で7ヵ所を回ります。道路は通勤ラッシュの時間と重なり混んではいましたが、海岸線に出ると景色は最高。気持ちのよいスタートです。道の脇にはキリンソウがゆれ、車内では、全国のおいしい食の話に花が咲きます。

鳥取では、少し曇っていた空も、出雲に着く頃にはすっかり晴れ上がり、10月というのに暑いくらいでした。

まずは、斐川町の出西窯。のどかで広々としたところです。工房では、ベテランの方、若い方、10名くらいの職人さんが、それぞれのお仕事に熱心に励んでおられました。窓の外に向かい、ろくろを挽かれている女性の凛とした後ろ姿、すてきでした。
登り窯も大きく迫力があります。すべてがもの珍しく、目を奪われてばかりいる私とは対照的に、主任は売り場でてきぱきと展示会用の品物を選んでいきます。私も急いで後へ続きました。シンプルな白いお皿、灰釉の美しい鉢、かわいい一輪挿しなどが選び抜かれていきました。

選品を終え、おいしいコーヒーをいただき、ほっと一息。皆さんのやさしい笑顔に見送られ、次の目的地へ向かいました。

コスモスやススキがゆれる斐伊川沿いを走り、三刀屋町の永見窯へ。
永見さんの工房は山の中にあり、まるで民話にでてきそうなところです。
ちょうど品物の少ない時期のようでしたが、面取りの花いれ、鉢などをわけていただきました。

昼食をとり、元気をつけたところで、次は石飛白磁工房へ向かいました。
大歳神社という大きな神社の参道のすぐ脇に建つそのお宅は、上田恒次さんの設計です。とても重厚で窓枠も木、屋根のかたちも独特でおもしろく、じっくりと拝見させていただきたいところですが、予定時刻よりかなり遅れていたので、急いで工房の二階へ。
あいにく石飛さんはお留守で、息子さんが案内してくださいました。風のとおりがとてもよい展示場には、清楚で品のよい白磁の品々が置かれています。注ぎ口がすっと伸びていて、ふっくらとしたポットに目が留まりました。手にもつとしっくり馴染み、使い勝手もよさそうです。「それ、いいじゃない。入れてみたら?」と、久野さんの一言。初めての仕入れで、これはうれしい瞬間でした。このポットが、どんな人の手に渡り、使われていくのか・・・想像すると楽しくなります。
石飛さんの息子さんが、湯呑のかたちについて久野さんに質問をされました。高台の大きさ、腰の張り具合などについての熱心なやりとりと、真剣なまなざしが印象的でした。

つづいて、斐伊川和紙の井谷さんです。
細道を上っていくと、白い壁に赤茶色の石州瓦の屋根。手前に愛らしい花が植えられていて、またまたすばらしいお宅です。
展示場は、天井も壁もスクリーンも、すべて和紙です。雁皮や楮、三椏の、美しくしなやかな紙が並べられています。
封筒や便箋にふれると、「使ってみたい。手紙を書きたい。」という気持ちになります。
作業場の裏から山へとつづくなだらかな斜面には畑があり、その向こうには楮の木も。楮は、すべてここのものを使い、一本一本包丁で皮を剥いで原料から作っていくそうです。お宅があり、作業場があり、畑があり、背景には山があります。そして、花が咲き、蝶々が飛んでいます。大らかな井谷さんのお母さんとお話させていただいているうちに、ここの土地、ここの人、ここの楮で作られる和紙が力強く美しいことに、「なるほど、そうか」と理由がわかったような気がしました。

赤とんぼがとびかう田んぼ道を下校中の子供たち。傍にいるお母さんに道を尋ね、高橋鍛冶屋さんへ。
鍛冶屋さんを訪れるのははじめてで、使い込まれた真っ黒い道具たちはとても魅力的でした。しばらく見ていたい気持ちを抑え、製品が並ぶお宅の中へ。存在感たっぷりの燭台、五徳、火箸などを注文しました。大きいおばあちゃんから小さな男の子まで、四世代のご家族の皆さんに見送られて高橋鍛冶屋さんをあとにしました。

次は、出雲市の森山ロクロさんです。
工房の二階へ上がらせていただくと、ガラスケースの中には、黒柿の美しい棗、茶托など、長くじっくりと使っていきたいと思わずにはいられない品々が並んでいます。その奥の倉庫には、たくさんのお盆や急須台などがあり、二人はすごい速さで、モク(木目)を見て選品していきました。判断力と迷いのなさ、さすがです。たくさんの製品を見せていただくと、「あ〜いいな」と思うものがいくつもあり、ぎゅっと堅そうなモクのものなど、一つ一つが違っています。私たちは、自然の恵みから原料を頂いて(借りて)、職人さんが手を加え、道具となり、器となり、それを暮らしのなかで使わせてもらっているんだな、と改めて感じました。

さあ、最後の目的地、玉湯町の湯町窯へ。
宍道湖のすぐ脇の道を走っていきます。西に傾きかけた陽が、湖面にきらきらと反射し、とてもきれいです。その湖面をカモの親子が泳いでいます。変わっていくもの、変わらないもの・・・。車内で、久野さんからヤワタノオロチ伝説、荒神谷遺跡など、出雲の興味深いお話を聞いているうちに、気がつけば玉造温泉のすぐそば、湯町窯に到着です。「ぽっ」と暖かい明かり。とてもすてきなお店です。倉庫を見せていただくと、まさに宝の山。地元の来待石からつくられるガレナ釉、海鼠釉、スリップなどの魅力的な品々がところ狭しと置かれていました。たくみに定番で入れさせていただいているもの以外にも、スリップの角皿、花入れ、小さめのフリーカップなどを選びました。お店に戻ると、名産のしじみ汁と、栗ご飯のおにぎりのおもてなし。「あ〜、美味しい」。体にしみていく感じです。福間さんご夫妻のあたたかさに感謝しつつ、湯町窯をあとにしました。

外はすっかり暗くなり、美しい夜景を眺めながら駆け足の一日を振り返ると、思い浮かぶのは、迎えてくださった方々のやさしい笑顔、魅力的な手仕事の品々、心地よい風、花、光、海・・・。出会えたすべてに感謝。とても楽しい一日でした。「神話の国」出雲。その土地のもつ奥深さ。そこで手仕事をして生きる人々の力強さを感じました。選んだ品々が、「出雲の手仕事」展でお客さんの手にわたり、その方々の暮らしのなかに溶け込み、長く愛されていくことを願います。

 

手仕事フォーラム 加藤直子