お神酒口 訪問地:富山県氷見市三尾 2004.12.13

今回の調査報告は富山県氷見市。石川県との県境に程近い山中の集落、三尾で作られている「お神酒口」についてです。
 三尾周辺では以前より竹細工が盛んで、ソウケ(米あげザル)などの農具や炊事用のザルなどが作られ、冬の農閑期(10〜3月頃)には、ほとんどの家で何かしら竹細工が作られていたそうです。
 現在は道路が整備されて三尾を訪れるのはかなり便利になっていますが、交通手段が限られていた頃は、特に冬場など他の町との行き来も非常に困難だったことでしょう。必然的に竹細工のような手仕事が冬場の仕事として定着し、おそらく貴重な現金収入となっていたのではないでしょうか。
 しかし、他の地域の手仕事同様、今ではごく一部の高齢者の方が細々と作るのみとなり、年々その数が減っています。特に今回の調査対象であるお神酒口に関しては、この三尾周辺でも、ここに紹介する坂下夫妻だけが、近郊のお店から注文された分のみを作っています。

 美しい手仕事の品が生まれる様子を多数の写真を交えてお伝え致します。坂下夫妻の熟練した技と、ほのぼのとしながらも見事な二人の連携ぶりをご覧下さい。

 
素材の竹は、親類もしくは知り合いの山から分けてもらいますが、坂下さんご自身が山に入り、採って、自宅の工房に持ち帰ります。
 
節の外側を削り、お手製の工作機械で皮を削ぎます。この工作機械に限らず、他の機械、機具全て坂下さんの手作りです。近くの知り合いの鉄工所で道具と場所を借り、目的に応じた仕組みを自分で考えて作ったそうです。道具から作る……手仕事本来の姿がここにあります。
 
決めた幅にするために印をつけて、ナタで手際良く小さく裂いてゆきます。
 
次は厚さを揃えます。まずは半分の厚さにして、そのまた半分ぐらいにし、これで厚さが決まります。

効率を上げるために、5、6枚重ねたものに細かい裂目を入れます。この機具もやはり手作りで、全く無駄のない動きに感心してしまいます。
少し入れた裂目が曲げることによって深くなり、節の所で裂目が止まります。当たり前のことなのですが、自然の摂理を応用した見事な仕組みです。

ここからは主に奥さんの仕事になります。裂目の入ったものをいろいろな形に曲げて、針金で固定してゆきます。それぞれのパーツの組み方によって様々な形が出来上がります。
右端は荷前の状態。段ボールの中にお神酒口がたくさん入っています。これから様々な場所に届けられ、そこに住む人たちと共に新年を迎えることになるのでしょう。

譲って頂いたお神酒口を飾ってみました。これで私も気持ちよく新年を迎えることが出来そうです。

 
(手仕事フォーラム 鈴木修司)