千葉県南総の竹細工職人さん 訪問地:千葉県南総 館山 千倉 2006.6.3

 竹細工ができる職人さんが年々減って行く中、千葉県南総の手仕事調査の1日は新しい竹細工職人さんに巡り会えるかがポイントになりました。まず手掛かりを得るために手仕事フォーラムリーダーの久野さんが昔から親しくしている館山の唐桟織の斉藤裕司さんのところへ出向きいろいろとお話を伺い、その後手探り、足探りしながら館山から千倉と移動して行きました。


釣り舟が賑わう金谷港
途中、久野さんがよく御存知の花籠を製作している竹細工職人Sさんの所にも寄りました。

Sさんの趣のある仕事場

万漁籠(左) 花籠(右)
花籠とは花を積む時に使う背負い籠です。直径40cmから60cm位、高さも60cm位ですか、大きな頑丈な籠です。Sさんは万漁籠も造っておりましたが、需要も無くなり年も取って来たので、今は造っていないそうです。万漁籠とは漁をする時に使う籠で、魚等を入れておきます。房総半島では、花籠は雌竹を用い万漁籠は真竹を用います。Sさんの現在のお仕事は、畑仕事と花籠造りだそうです。

南総の自然
途中、消防署、竹材店、フラワーショップなどいろいろなところで僅かな情報を得ながら移動、一人の竹細工職人の方についに巡り会う事ができました。大変幸運なことです。お名前はプライバシーなど個人情報の関係があるため公表できませんが、この方を仮にMさんとお呼びします。年令は50歳を少し過ぎたところ、まだまだお若いです。Mさんは注文されれば、自分のわざを駆使して何でも造るとおしゃっており、ご自分の発想でオリジナルの笊や籠も造っております。

Mさんの仕事場には、いろいろな竹細工品が溢れておりました

本人によると、父親が竹細工をやっていたため、子供の頃から籠造りを手伝って来たそうです。30歳を過ぎてから家業を継ぐため本格的な籠造りに入ったのですが、子供の頃の手伝いの手さばきが自然と身に付いていたので、年令が30を過ぎていても自然とこの世界に入って来れたそうです。竹の材料は千倉の竹材店から購入するそうです。職人さんが自ら材料を集める地域と竹材を部材とし扱う竹材店から材料を購入する地域といろいろあるようですが、この辺りはどうも後者のようです。真竹のみを3本締1単位一束で注文、必要分を配達してもらうそうです。真竹は節と節の間が長く、竹の先と終わりが均等の太さになっております。
* 竹の長さは約10m〜12m 1本の竹の円周が6寸、7寸、8寸とあります。

それでは、Mさんが制作しました竹細工の一部を紹介します。

1.海藻、海苔、小貝などを入れる「ふご」という籠(写真左)
館山方面から内房総では「ヒゴザル」という名称だそうです。

 

2.草採り笊(写真右)
館山方面では編み入れ籠と呼ばれ、漁船が必要とした籠である。久野さんに寄ると、多分必要となくなった籠が、用途を違えてこのような名称で呼ばれるようになったのではとのこと。
(草採りには小さすぎるサイズに思われる)

3.長芋籠(写真左)
長さ1mの寸法ですが、本来は1m20cm、長芋を採取する時に使う籠です。10年以上前に鎌倉のもやい工芸さんで現代の生活に合うように60cm程度の長さにアレンジして、鉢入れなどの用途で販売したことがあるそうです。
* 1mまたは、1m20cmの長さだと上の縁の内側に力骨という竹の押さえ棒をあてないと、いくら強い真竹でも重さでしなってしまいます。60cm位だと少し軽くなり力骨は入らなくなり形がすっきりしてくると思われます。

 

4.背負籠
この地域では商い籠の用途で使うようです。真竹で仕事するMさんは、雌竹の花籠は造らないそうです。
背負籠製作中(右上)
背負籠現在使用中(右下)

5.貝籠(写真左)
修理中少し小ぶりの5貫万漁籠です。本体を支える力竹の部分が破損して修理中です。竹細工職人さんは、このように籠の修理も仕事にしています。

 

6.ウナギ籠(写真右)
ウナギを入れる籠、ウナギが逃げないように円錐形をの形になっており、ウナギの皮膚を傷つけないように下から10cm位を竹の表面が中側になるように切り替えて編んでいます。蓋が三段になっているいわゆる三段籠蓋の部分には、ウナギ漁に必要な道具等を入れるようになっています。人から頼まれて作成したものだそうです。

Mさんの私が受けた印象は、前向きに生き残るべき姿勢でこの仕事に取り組んでいるだけではなく、自分にはこれしかないという必然性を淡々と表現して仕事に取り組んでいるように思えました。従って自分で工夫してオリジナルのものを作成し、人から頼まれると自分の技術を駆使して何でも取り組む、しかし自分のスタンスははっきりしているようです。制作した製品についていろいろとお話を伺うと、出来上がった過程等、気合いの入った表情で惜しみなくお話される方でした。意外と商売も上手なのかもしれません。
私の購入した長芋籠は出来が少し粗い感じがしましたが、頑丈で豪快な籠です。長芋籠は我が家で本棚になっております。


八犬伝の犬ならぬ、猫が導いてくれた?

それにしても行く先々に猫がおりましたのは、南総だけに八犬伝の犬ならぬ猫が導いてくれたのでしょうか、また北斎版画を思わせるような美しい景色、総てに感謝です。花籠のSさん、竹細工のMさん本当にありがとうございました。

 

手仕事フォーラム 北川周


北斎版画を思わせるような美しい山と空のコントラスト