益子の名工 木村三郎さん 訪問地:栃木県益子 2006.6.14

 

16歳から陶工の道に入ったという木村三郎さんは、ひとつの急須を2〜3分で作り上げてしまう魔法のような手の持ち主です。「作ることは教えてできることではない。同じかたちのものを何千個も繰り返し作っていくことで、体が覚えていくんだ。言ってみればろくろの上で自転車のバランスを取るようなもの」とお話してくださいました。

   

父の元で修行をはじめた木村さんは、昭和8年に作られた日立製作所の大?陶園に引き抜かれ、そこで15年間働いたそうです。日立製作所の大?陶園とは、市販をしない陶芸の施設で、陶工4人が自由に作品作りに励んだそうです。益子に窯を開いたのは昭和47年、それからずっと益子で製陶しています。

今回、訪ねた時にちょうど作られていたのは急須の蓋でした。

木村さんは急須の蓋を独自の方法で作ります。普通は、蓋の取っ手は後付けする人がほとんどだそうですが、木村さんはろくろの上で、取っ手と一体型になった蓋を作り上げてしまいます。まず、蓋自体の大きさを整え、取っ手の部分を親指をたくみに使って、浮き上がらせていきます。ろくろ作業だけで、寸分も違わない蓋を1分もかからずに作ってしまう様子は魔法を見ているようです。また、それをたいした事と思わずに「当たり前にできるのが職人」という姿勢には、頭が下がります。機械よりも精巧な手技をもつ陶工の仕事を見ることができるのは、貴重な体験でした。「日常使っているものから学んで欲しい」と、木村さん。日常使いの器で、これだけ質の高いものを作れる木村さんだからこそ、説得力のある言葉です。

 

手仕事フォーラム 小林こりん