しかしそんな中でも嫌味のない最も美しい街並が残っている宿場町が、奈良井宿です。他の宿場に比べると、そこに住む人々の生活をリアルに感じることが出来るのです。実際に聞くと、やはり他の宿場では、街道沿いの建物を住居としてではなく、商店、飲食店などの商業施設として使うことがほとんどだそうです。
そして今回の調査の為に訪れたのが、その奈良井宿にある「小坂屋漆器店」。同行者である久野氏も何年振りかの訪問で場所もうろ覚えでしたが、地元の方に何度か道を訪ねつつ、途中で思いがけずの収穫もあったりと(湧水場を発見!水汲みスポットがまたまた増えました)、調査の旅らしく目的地に辿り着くことが出来ました。到着すると、夕方前の何かと忙しい時間に関わらず、ご主人の小島貴幸さんは笑顔で迎えてくれ、嫌な顔ひとつすることなく工房まで案内してくれ、逆に嬉しそうにいろいろと貴重なお話をして頂けました。
こちらの漆器店は、曲物、漆器、蕎麦道具などの製造、修理から販売まで幅広く手掛けています(ここ数年は主に蕎麦道具の製造、修理が主な仕事になっているそうですが)。木地作りから、曲物、はたまた指物まで、そして漆塗りとすべてをこなし、一貫生産にこだわります。かといって高価なものを扱っているわけでもなく、あくまでも生活の道具を生産し続けることにこだわり、今ではほとんど見られなくなった”本来あるべき姿の漆器店”なのです。もちろん並々ならぬ苦労と信念があってこそ成り立つことなのですが。 |