鹿児島 ツヅラカガイ 訪問地:鹿児島県さつま市 2008.6.24

 

梅雨時期で製作されていない頃だとは分かっていましたが、せっかく近くまで来たのだからとツヅラカガイの製作者である下屋敷さんにお会いする為に、お宅兼工房のある鹿児島県さつま町の山深い集落を訪れました。

“ツヅラカガイ”とは、ツヅラ(学名 大ツヅラフジ)で編まれた四角形の背負いカゴのことで、この地方では背負うことを“カガウ”と言い、そこから名の由来が来ています。
製作者である下屋敷さんは三代目にあたり、本業としてツヅラ細工に携わったのは実は還暦を過ぎてからとのことで、そう古くはないようです。下屋敷さんは実母である東條ノリさん(二代目)に仕事を教わったそうですが、そのまた先代の一代目 東條イチノシンさん(ノリさんの親戚にあたる)は地元では評判のツヅラ細工名人であったとのことでした。こちらへ連れていってくださった久野さんの発見は30年以上も前に遡り、その頃はまだ一代目が仕事をされていました。
下屋敷さんの話によると、この周辺では一世代前の方であれば誰でもツヅラを編むことが出来たそうです(生まれが昭和の一桁年より前の方であれば・・)。ツヅラ細工の代わりになるような安価で便利なものが出回ると需要も減り、そうなると製作者も少しずついなくなり、また雑木林が植林に変わったことで、山に自生する細工の材料となる良質なツヅラが少なくなった為に材料不足も重なり、今では下屋敷さんただ一人がこの仕事に携わるだけとなっています・・。ツヅラ細工だけで生計を立てていたような方は、もう皆さん亡くなってしまったとのことでした。
※植林となり山に手入れが入ることで、日当たりが良くなると、ツヅラが育ち過ぎてしまい、細工材料に使うには太く成長し過ぎてしまいます。
現在、下屋敷さんは近くの工芸館でツヅラ細工を地元の方々に教えているとのことで、その中の誰かで続けてくれるような人が出てくれれば・・とも仰っていました。

材料のツヅラに関しては、9月頃から霜が下りるまでに一年分の材料を確保(採取)し、採取場所は近くの里山にはなく、奥山へわざわざ採りにいくそうです。しかし今回伺った時には、梅雨前に採取した材料がたくさんあり、それらにはカビがかなり生えていました。作業場にカビの匂いが充満していました。そんな材料でも梅雨が明けて暑くなってから、水でカビを洗い飛ばせば大丈夫とのことで、実際に材料として使って、編むそうです。

新品のツヅラカガイを見せて頂きました。まだカッチリとした印象でしたが、使い込む程に馴染んで、しんなりしてくるとのことでした。立派な形の素晴らしい背負いカゴです。何とかこの形を現代の生活の中で活かすことは出来ないものかと感じます。


ツヅラ細工は、このような型枠を使用して編まれます。
様々な形、大きさのものがあります。

こちらの藁は背負いカゴの肩掛け部分の材料として使われます。ツヅラ細工をする為には藁細工もこなせなくてはいけません。一昔前までの話ですが、先述したようにこの周辺では誰でも簡単なものであれば、ツヅラや藁、竹の細工をこなすことが出来たのでしょう。実際にこの周辺は、良質な竹が採れることから過去には竹細工の生産地としても知られていたようです。

 

手仕事フォーラム 鈴木修司