龍門司窯仕事場探訪 訪問地:鹿児島県姶良郡加治木町 2006.7.10

 今回は龍門司窯の仕事場調査に加治木町を訪れました。
 車で工房へ向かう途中、九州自動車道加治木インターの東側に特異な形をした山があります。山の名前は蔵王岳、標高161m。頂が平らに切り取られた形から、スピルバーグ監督の「未知との遭遇」で地球外生物との交信が行われたデビルスタワーを思い起こさせます。でっかい土まんじゅうが大地にポンと唐突に置いてある感じです。蔵王は山岳信仰から来る名前ですので、頂上に社が在るのかと久野さんに尋ねると頂上には日の丸が掲げてあるとの回答、後で知ったのですが、鹿児島は西郷隆盛・大久保利通など近代日本の立役者を輩出した地、「日の丸」「君が代」のルーツが全て薩摩にあると分かり謎が解けました。

 

 

 龍門司窯に着き川原さんに仕事場の内容を聞かせていただきました。現在の工房と登り窯は昭和22年に建築され、築後60年を経過しています。工房の東側の窓は全て障子窓とし、夏の風通しに配慮する一方で風から建物を守るため全ての開口部に雨戸が設けられています。登り窯には地元の加治木石を積み、焚口を作ってあります。石を荒々しく削ったのみ跡はレンガ積みの焚口と違い独特な印象を受けます。工房の床はたたき土間となっており、冬の暖を取るための囲炉裏が切ってあります。窯と工房共に地域性を生かした構造と民窯の伝統的な作業場の姿が現在も生きています。龍門司窯の調査は民家・町屋の調査と違い生産現場を知ることから始まり、地域の生活文化と密接に結びついて現在があることを念頭において調査を開始します。

実測はまず高さから調査します。調査のいでたちは手には軍手、首にはタオルを巻き、メジャーと脚立をもって各部分の高さを計測して廻ります。時期はつゆ、天井にはむっとした熱気がこもって30分も経つとポロシャツが汗でべったりしてきます。さらにメジャーを当てるたびに長年積もり積もったススが顔に落ちてきます。横では久野さんが、前回の制作指導を基にひかれた見本を熱心に検分中で、白化粧された器がずらりと並んでいます。今回は形を見るため色付けをしないで試作品を作ってもらったそうです。合間に河原さんの奥様が出してくれたスイカとお茶で十分水分を補うことが出来ました。奥様心遣い有難うございます。休憩中、ふと目をこね板に向けると、板にロクロにかける前の土が形を整えられて置いてありました。この形、朝見た蔵王岳とシルエットが重なります。久野さんは猪俣さんに蔵王岳みたいじゃないと問いかけると、猪俣さんは「そうかな」と笑っています。

 豊かな自然に囲まれた環境の中でこそ、仕事をしながらしゃれっ気を持つ心のゆとりが出来、心地よい緊張感の中でよい仕事が生まれるのだと感じました。午後6時位までかかり断面の情報を計測することが出来ました。

手仕事フォーラム 吉田芳人