小鹿田盆前窯出し 訪問地:大分県日田市 2007.8.21

さる八月十日に小鹿田焼共同窯の窯出しがありました。毎年恒例になっていて、盆前には各窯元は窯出しして、製品を仕分けて出荷後、お盆を迎えます。
皿山は、山を出て行った兄弟、親戚の里帰りで数日間賑わいます。そんな光景をずっと見てきましたが、6、7年前頃から、やや様子が変化しつつあるようです。帰省の人達がずっと減ってきたようで、かつては盆前にあわてて窯出しを急いだ各窯元、さほど頑張って間に合わせることがなくなったようです。ここ小鹿田もいつのまにか社会の流れに沿うかのような方向になりつつあるようにみえます。かといってこの流れは意識的なものでなく、これもここ特有の自然体から生まれたものなのです。

この窯出では、窯積めのころ豪雨が続いたため、乾きが遅く焼きの不上がりを心配しましたが、窯出ししてみると、どこも焼き上がりは上々のようで全体でも歩留まりは良かったといえましょう。私は博多を朝一のバスでしたが連絡悪く、日田から皿山までは窯元の一人柳瀬朝夫さんに迎えに来てもらって助かったのですが、その朝夫さんは、今回は八袋ある登り窯の、下から二番目と六番目の二袋の窯です。一、二番目は還元炎焼成気味となりやすく、歩留まりは悪いのが通例ですが、時として焼き具合のおもしろいものが出てきます。今日もウルカ壷の一合壷の中に、飴グスリが濃く鮮やかに焼けた美しいものがありました。

 ウルカ壷は毎窯、日田市内の魚屋さんから「鮎の塩辛入」の土産用として数多くつくるものですが、壷本体二個を縁で接合させて、窯詰めでは空いた場所を選ばず置き、蓋も同じく詰めるのです。窯出しされたら、焼き上がりの良し悪しにかかわらず整然と並べ、蓋は本体の口径に合うものを適当に選んで手早くかぶせていき、軽く包んで箱に入れ、一両日中に車で納品してしまいます。こうした同じものをたくさんつくる作業があるからこそ、つくりの均一さや段取りの早さといった、陶工に必要な日常的な訓練となり、小鹿田の伝統を、特別に意識することもなく、リズミカルに今日まで維持出来てきたことの一つにつながるのだと思うのです。
朝夫さんの窯出しは、わずか二袋の窯では数量もしれていて、中でももやい工藝からの四合壷の注文品が数多く、他の品々はたいしてつくれていませんでした。海抜500米とはいえ真夏の炎天下、コンクリートの庭先でその四合壷約300個をかがんでの検品作業は、汗だくになり辛いものです。さて、それで完品は185個。いかに歩留まりが悪いのかがわかります。もっともアーチャン(朝夫)のものは、つくりや重ねの接合がおおざっぱで、どうしても変形やクッツキが他の窯より多くなりがちなのが「特徴」ともいえます。それが素朴でてらいないよさでもあるのですが、数合わせとなるとこのように苦労するのです。


庭先での検品

今回の窯では二番袋の焼きが強いわりに、窯出し傷が少ないものが多く、私が好むスリバチが綺麗にとれて、猛暑の中を来たかいがありました。盆前の小鹿田で、午前中の柳瀬朝夫さんの窯出しで汗をかいているうちに、向かいの坂本茂木さんが昼ご飯の誘いにやってきました。11時半、これも私が小鹿田に通うようになってからの「オンタTime」の慣例なのです。すでに窯元を子息に譲った茂木さんは、ここ数年とくに孤高的で、昔からの付き合いである私を、より以上に待ち構えているようです。アーチャンがさっそく坂本浩二、黒木昌伸両君も呼んで、いつもながらの「山のそば茶屋」で昼がはじまるのでした。
今日は私の帰りが決まっているので、いつもだと2時過ぎまで宴はつづくのですが1時半までにしてもらいました。昼食後は坂本浩二君の窯です。年内までは父の一雄さんが窯元ですが、来年からは浩二くんが窯元を継ぐことになります。そうなると浩二君とは呼べません。

窯出しの結果はいつもと同じ、全体に良い状態で彼には安心して様々な注文が頼めるのです。今回、こちらにも数を注文していたのですが、そのピッチャーとフリーカップがピタリと形も焼きの調子も均一で、製品を頼んでいた方にも喜ばれること間違いなしでしょう。
販売には文句のつけどころがない製品を、手で、しかも収縮変化が著しい特徴の陶土と不安定な登り窯でもつくれるのは、浩二君が、日頃のひたむきな取り組みもさることながら、一昨年の鳥取手仕事フォーラムの実演会での森山雅夫さんのつくりの丁寧な仕事ぶりを学び、自らのロクロ作業にそれを取り入れているからなのでしょう。感心しました。ただひとつ、今の仕事に「素朴性」がにじみでてくると、つくったものに力を感じさせてくれて、製品を越した「もの」のよさ、美しさを生じさせられるとは思うところです……この話しは互いに打ち合わせを重ね、ウワグスリの改良も考えていこうとなりました。次回にまた楽しみができました。

窯出しに彼の奥さん・弥生さんとお母さんが、この頃私達メンバーでも流行っているサンダルを履いていたのが目につき、聞けば皿山でも女性達に人気とか。履き心地よく仕事しやすいとの話し、じゃあ このまま一緒に帰りましょうかと笑い話しとなりました。
そのあとは黒木昌伸君の窯出しで、注文していたものと、他にも何かないかと伺いました。彼の父・富雄さん母上ともお人柄が大変よさそうで、いつも笑みをもって迎えていただけます。まだ仕事に取り組んでまもない昌伸君にずけずけと注釈をする私なので、静かに見守って頂けると助かります。素直な見方の昌伸君の仕事の成長は著しく、いかにも若者らしい活力と明るい仕事が目に焼き付きます。その仕事ぶりはもやい工藝のホームページで、とりくみの魅力は手仕事フォーラムのブログに月に一度は彼が現れますので乞うご期待を!

そして慌ただしく帰りの便に間に合うよう皿山を出発しました。車の両窓にせわしく手をふりながら……それにしても暑い熱い九州北部の四泊五日の旅でした。

 

手仕事フォーラム 久野恵一


坂本浩二さんと黒木昌伸さん