他の地域に比べ東北には、まだまだ健全で美しい手仕事が数多く残っています。それらを調査する為に宮城、岩手、秋田を訪れました。その際に訪れた場所の一つが、岩手県は盛岡市にある蟻川工房です。 蟻川工房は大変美しく上質な手織りの毛織物(ホームスパン)を製作するところとして知られ、かの柳悦考の元で織りを学んだ故蟻川紘直氏がこの地で工房を構えたのが始まりです。現在は奥様である蟻川喜久子さんが代表として仕事を続けています。
今回の調査では、実際に製作過程を見ることはあまり出来ませんでしたが、その代わりに蟻川さんより貴重なお話をいろいろと聞くことが出来ました。少しではありますが工房での風景を写真に収めてきましたので、それと合わせて簡単にその内容をご紹介致します。 まず道具について、ここでは手に触れる道具はほとんど、工房の人たちによる手作りだそうです。作り手それぞれに合わせて、より使いやすく、無駄な機能は一切省いて作ります。「与えられた道具、素材でものを作るのは趣味レベルであり、プロとして出来る限りの範囲で全ての工程に携わるべき」、また、「そうでないと、どうやって自分の作り出したものに責任が取れるのか」とのことでした。作り手としての意識の高さ、作り出すものに対しての自信が伺えました。おそらく手仕事に携わる人すべてにあてはまる言葉でしょう。 次に、手仕事によるものは、人が使うものとしては最良のものであるということです。生産コストなど諸事情があるので、価格などを含めてすべてが最良であると言い切るのは難しいのですが……。 |