イタヤ細工 訪問地:秋田県角館市 2007.7.19

 秋田、岩手、山形、福島県と四県をまたぐ東北手仕事調査の旅に出掛けました。調査の主な目的は東北の編組品にあり、まずは山形県月山にて山葡萄樹皮細工、続いて鶴岡市郊外のアケビ蔓細工、そして秋田県に移りアケビ蔓細工、イタヤ細工を、最後に岩手県一戸では竹細工の製作者を訪ねたのでした。
 ここで紹介するのは、秋田県角館市でイタヤ、山葡萄、胡桃の樹皮細工を製作する佐藤さんご夫妻です。ご自宅にある工房と、実演と販売所を兼ねる角館市内の武家屋敷“青柳家”を訪ねたのですが(三度目の訪問になります)、今回初めて実際に作業をしているところを見ることが出来たのです。何かと忙しい時期の訪問にも関わらず、嫌な顔ひとつすることなく、手間の掛かる作業を実際に目の前で見せてくれました。これも同行者である久野氏とご夫妻との長きに渡るお付き合いによる深い信頼関係によるものでしょう。
 もちろんすべての行程ではなく、イタヤ細工の中でもおそらく最も手間が掛かり重要な作業であろうと思われるヒゴ取り(ヒゴ作り)の製作過程を見せて頂きました。山葡萄や胡桃などの樹皮細工とは違い、イタヤカエデのヒゴ取りは一本の丸太を割ることから始まり、それを少しずつ細かく割いてゆき、製作するものに合わせた一定の幅にし、そして一枚一枚年輪に沿って剥ぎ、またそれらの厚さを揃え、最後に面を取ります。そうしてやっと編んでいく為の下準備が終わるわけですが、非常に手間を必要とするものです。分り易く以下に写真に沿い順に説明致します。


丸太をまず等分に割っていくところから始まります。

急なお願いであったので下準備もままならず、
材料であるイタヤカエデは非常に硬く、苦戦されていました。
申し訳なかったです……。

少しずつ最終的なヒゴの細さに合わせていきます。


一定の幅に割き終えると、今度は厚さを揃えていきます。
年輪に沿って、一枚ずつ剥いでいく作業です。
全身のあらゆるところを使い作業は進みます。


厚さを均等にする為に、丹念に削いでいきます。

角の面取りまで、非常に手間の掛かる工程です。
 最近では材料となる良質のイタヤカエデを見つけることが困難となりつつあります。その原因としては育つ場所の減少にあるようで、採取地が年々限られてきているとのことでした。様々な要因が考えられますが、主に環境の急激な変化などが挙げられるのでしょう。
 また佐藤さんご自身の高齢化による体力的なことや仕事の効率を考えると、なかなか山に入ることも出来ず、近頃は材料採りをひとに頼んでいるそうです。そうなるとその方々の日当ももちろんばかにならず、そういった理由で材料費がかさみ、コスト面で少しずつ無理が出てきているとのことでした。

 
作業場の屋根裏が材料置き場になっています。
イタヤカエデ、山葡萄や胡桃の樹皮など大切な材料が所狭しと積まれていました。


イタヤ細工は時間を掛けて、
このような美しい飴色に変色していきます。

 イタヤ細工は元々は農具用でしたが、今の時代に農具としては高価なものとなってしまい、本来の用途から離れてゆき(道具としての需要が非常に少なくなりつつあるので)、鑑賞品や趣味品として製作されることが多くなるのです。本質的な美しさ(実用から必然的に生まれる道具としての美しさ)も失われていくのではないかと危惧されます。実際に「これは?」と感じられるものも、青柳家には並んでいました。一概にそれを責めることもできないのですが……。
 イタヤカエデの特性としては非常に弾力性があり、よほどきつく曲げたりしない限り折れない、また折り曲げてもすぐに元通り戻ることにあります。先人はよくこの特性を見極め、堅牢度が一番に必要とされる農具に転用したものだと感心します。しかもそれが美しいのですから、尚更感心します。 しかしつくりたてのイタヤカエデの若々しく清らかな白さは何とも言えず美しいのです。そしてそれが経年変化により飴色に変わっていく様は、また一段と美しく、魅力的です。何とかこの美しいイタヤ細工を後世に繋げていけないものかと強く感じたのでした。

ちなみに佐藤さんはこの仕事に携るようになって58年だそうです。気の遠くなるような年月です・・。

手仕事フォーラム 鈴木修司

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