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連載・手仕事レポート→昔の物 今の物
昔の物 今の物(10)2007.03.12

 陶磁器のご紹介が続きましたので、少し息抜きに、版画をご紹介します。民芸に興味をお持ちの方が、版画と言うと、まず棟方志功の木版画を思い浮かべるでしょう。確かに棟方志功は、独特の美的感覚と魂を乗り移したかのような彫りと刷りが、何とも言えない魅力があります。しかし、日本には、棟方志功のような創作版画とは異なる、また、世界に誇れる木版画があることを忘れてはなりません。

 ご紹介する一枚目の版画は、安藤広重の「富士三十六景」の一枚です。江戸時代幕末の作品です。この頃、木版画(浮世絵)は、材料も、職人も、また技術的にも最盛期を迎えていたと思われます。桜材の最上の版木(桜材は最良の物をまず版木とし、二番三番物を挽地材、指物材にしたと言います)を扱う板屋が何軒もあり、彫り師もその技量に応じて、頭彫り、胴彫り等に別れ、刷り師も自らの技量を競い、作品にその名を残します。浮世絵と言うと歌麿、北斎、広重等、絵師のみが取り上げられますが、絵師のみならず、多くの職人の熟練した技術の上に成り立っている職人の仕事なのです。

 ご紹介する二枚目の木版画は、明治時代の三代広重の作品です。明治時代となっても、江戸時代と変わらない飛脚らしき人物がいたり、一方洋傘、洋装、電線が描かれるなど、当時の生活が生き生きと描かれています。この時代は江戸時代に確立された浮世絵の職人の技術がまだ継承されていたのでしょう。確かな彫りと刷りが窺えます。

 ご紹介する三枚目の木版画は現代の彫り師、刷り師が安藤広重の「名所江戸百景」を復刻したものです。明治以降、衰退してきた職人仕事を復興させる意味で、興味があります。

 浮世絵コレクターとして、高い値段の作品を集める方もいますが、名前、時代にとらわれずに職人の仕事として、安くて気に入った一枚でも、十分に職人の仕事の味が楽しめます。

手仕事フォーラム 横山正夫

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