Kuno×Kunoの手仕事良品

昔の物 今の物(19)2007.12.22

 自在の横木をご紹介します。

自在の横木とは、囲炉裏の火の上に鍋等を掛ける時に、天井の梁等から降ろした鈎の付いた棒または縄の長さを調節する横木です。この横木は、一種のてこの原理をうまく利用した昔の人の知恵の産物と言えるでしょう。

この横木は、その機能だけから考えれば、長方形の板に穴を開けるだけで用が足ります。しかし、昔の人は、ここでも生活に潤いを求め、また火に対する注意から、この横木に様々な形を与えました。

その多くは欅等の堅木を用い、また、火を相手とするため、その対抗として、多く水に関わる題材を彫り出しました。

上の写真の横木はまさに水そのものの文字を彫り出しています。

そして、下の写真の横木は水の中で生きる鯉を彫り出しています。

自在の横木の置かれた位置から、横木は常に火の真上にあり、煙に燻されることとなります。そして、この過酷な位置に有ることによって、えもいわれぬ飴色の艶を持った姿となります。まさに、日常生活が作り出した、人工では作り得ない美を生み出しています。

現代の生活では、最早この美を生み出すことは不可能ですが、使うことによって生み出される美があることを認識すべきことを教えられた気がします。

 

手仕事フォーラム 横山正夫