プレス掲載

2004年4月23日 毎日新聞掲載

暮らし いきいき 家庭欄(10面) 毎日新聞大阪本社

「手仕事 ニューウェーブ」
次世代民芸への可能性 日用品にも斬新なデザイン

 緑、白、黒の3色の釉薬(ゆうやく)が均等に掛け分けられた染分皿は民芸であって民芸でないような斬新なデザインである。因州・中井窯窯元、坂本章さん(39)が作るカップや皿が都会の若者向けクラフトショップに陳列され、「モダン民芸」として注目されている。
(編集委員・平野幸夫、写真も)

 「らしさ」より洗練さで
 
 骨とう的価値が先にみられがちの民芸の世界は今、新たな価値の創造という面で転機に立つ。職人による新たな創作活動が待望される中、坂本さんは3年前、東京・駒場の日本民芸館での日本民芸館展で、出品作「三色染分け大皿」が最高賞を受賞し「次世代民芸」につながると高い評価を受けた。
 
 柳宗理氏考案の洗練された造形美がモダンリビングにマッチし、その後ヨーロッパの食器を扱う外国人バイヤーまでもが訪れるようになった。

 もともと中井窯は坂本さんの祖父が終戦直後に開窯したが、粗陶器が多く廃れていった。そこへ民芸運動を提唱した柳宗悦に共感し、鳥取でわが国初の「新民芸運動」をおこした吉田璋也が何度も足を運び、坂本さんの父實男さんに日々の暮らしに使える品々を作るように要請した。しかし後を継いだ坂本さんは父のコピーばかりで、長く自身が持てなかった。

 30歳になって、全国の窯の復興を手がけている日本民芸協会常任理事の久野恵一さんが指導に通ったのが転機になった。

 器の縁の返し、腰の丸みのとり方など細部の作業を根気良く学び、見違えるような洗練された小鉢、取り皿、コーヒーカップ、ポットなどが作れるようになった。特に白い釉薬に銅のさびを入れて表れる緑は、見る者に強い印象を与える。鳥取県の片山善博知事も知事室への来客に坂本さんの湯飲みを使い、作品を陳列する程の愛好ぶりだ。

 坂本さんは「民芸特有のボテッとした形が嫌いで、できるだけ緑のラインでスッキリ見せて洗練さを表したい」と作陶姿勢を語る。

 久野さんは「今の生活に合った日用品を、当たり前のように繰り返し焼ける職人として育っている。山陰を代表する民窯として育てたかった吉田璋也の思いを受け継いでほしい」と期待をかける。
         
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 ものづくりの復権が地域再生の重要なテーマにもなっている。だが、技の伝承や人材の育成が課題でもある。効率万能の時代に、あえて手仕事の世界に身をおき、技の向上に打ち込む気鋭の職人らの生き方はさまざまな可能性を示している。
次号は5月28日掲載予定)

メモ 中井窯周辺は江戸時代の宿場町として栄えた智頭宿も近く、大庄屋「石谷家住宅」など古い町並みが残る。坂本さんの食器類は坂本さん方(鳥取県川原町中井243の5)のほか鳥取市栄町の「たくみ工芸店」、東京や大阪などの「ビームス」店で販売されている。